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 “イージス”配備白紙撤回にトランプ大統領の反撃は?

 河野太郎防衛相は、安倍政権が導入を閣議決定した地対空迎撃システム「イージス・アショア」の配備停止を発表した。安倍晋三首相は「これ以上、進めるわけにはいかない」と述べ、計画は白紙撤回へ。イージス・アショアは、防衛省が弾道ミサイル防衛に活用するイージス護衛艦を四隻から八隻に倍増させることを決め、ミサイル防衛システムの整備が完了する予定だったにもかかわらず、安倍政権がトランプ米政権の誕生を受けて、米国からの導入を決めた「政治案件」である。
 米政府に支払うカネは8000億円を超える見込みだった。ここへきて、推進装置のブースターを安全に落下させる改修に2200億円の追加費用が必要とわかり、費用対効果の面から河野氏の停止表明につながった。
 トランプ氏にとっては対日貿易赤字を減らし、今年11月にある大統領選を有利にする材料を失ったことになる。これで済むはずがない。
 思いやり予算の根拠である日米特別協定は来年3月で切れる。日本政府は現在、約2000億円を負担しているが、今年8月にも始まる日米交渉で米側は大幅な増額を要求しそうだ。イージス・アショアは北朝鮮からハワイ、グアム島へと向かう弾道ミサイルの探知を兼ねているので、米側は日本側にイージス護衛艦の追加建造を求めるかもしれない。
 トランプ氏にとって最も都合がよいのは、日本側がイージス・アショアを予定通り導入することだ。米側が配備先を見直すことでブースター問題を棚上げできると主張する事態は十分、あり得る。いずれにしても米政府の反撃はこれからだ。


 今秋の解散・総選挙に現実味がある複雑な理由

 政界では今秋の「衆院解散・総選挙」説が囁かれ出した。安倍晋三首相の側近は「このまま解散を見送れば来年10月に衆院の任期満了を控え、安倍政権はレームダック化する危険がある。首相は今秋に解散に踏み切るべきだ」と言い切った。
 確かに年内の解散が見送られた場合、まずは「年明けから春先の解散」が有力となるが、新型コロナウイルス感染の第2波と重なる可能性がある。そこで解散がなければ、五輪・パラリンピックが閉会する来年9月5日の1カ月半後には衆院の任期満了を迎える。一方、仮に五輪・パラリンピックが中止なら、来年に入っても新型コロナウイルス感染が続いていることが想定され、衆院選は行いにくい状況が続くことになる。
 今後の外国人の入国緩和によって、医療の専門家たちは「11月から年末にかけて、大規模流行が再発する」との見方でほぼ一致している。こうした要因が背景となって、新型コロナウイルスの第2波が到来するまでの間隙を縫う時期として、9月解散を前提にした「10月26日投開票」説が浮上しているのだ。
 ただ、安倍首相の基本戦略は自分の息のかかった岸田文雄政調会長に禅譲し、退陣後も影響力を維持することだ。首相が今夏の東京五輪・パラリンピックを花道に早期退陣し、岸田政権の下で解散を断行するシナリオもあったという。
 しかし、新型コロナ禍で五輪はまさかの延期。しかも岸田氏は不人気だ。首相としては岸田氏への禅譲路線を凍結し、自らの手で解散する戦略を模索し始めたわけだ。もっとも、前回の衆院選で大勝した自民党は、その反動で次の選挙では大幅な議席減も想定しなければならない。選挙の結果次第では首相の責任論が台頭する可能性もある。秋の解散は「大きな賭け」ともいえる。


 西村「コロナ禍担当相」がポスト安倍候補に急浮上

 西村康稔経済再生担当相が「ポスト安倍」候補の1人として急浮上している。本人も「私は有資格者だ」と周囲に漏らすなど意欲満々だ。
 西村氏が所属する自民党細田派(清和政策研究会)では、次の総裁候補は下村博文選対委員長か稲田朋美幹事長代行と目され、西村氏は「次の次」扱いだった。だが安倍政権の「コロナ対応担当相」として記者会見やテレビ出演の露出度が増え、その発言が連日ニュースで取り上げられるようになった。
 西村氏は中学時代、陸上部に所属、私立灘高時代は野球部で勝負強いバッターとして鳴らしたスポーツマン。東大法学部時代はボクシング部に所属、現在もランニングが趣味だ。
 コロナ禍で西村氏同様人気が急上昇した吉村洋文大阪府知事とは「出口戦略」を巡って批判の応酬を展開。西村氏の投稿には「上から目線」などと批判コメントも集まった。自民党内の一部にも「西村氏はしゃべりたがり屋だ」などの批判もある。
 西村氏は、自民党が下野した97年9月の総裁選で、谷垣禎一氏、河野太郎氏と共に立候補した経歴がある。この時は谷垣氏が圧勝した。この総裁選で西村選対のトップを務めたのが加藤勝信氏(現厚労相)。菅義偉氏(現官房長官)は河野氏を推した。安倍氏は、西村氏の義父が岸信介元首相の地元城代家老だった吹田晃元自治相という繋がりで西村氏支持。菅官房長官はポスト安倍を巡って自ら名乗りを上げるか、西村氏を担ぐかのいずれかとみられている。


 五輪か貧困対策か日本の行方を占う都知事選

 都知事選候補の台風の目になった「れいわ新選組」の山本太郎代表が公約のトップで東京五輪の中止を訴え、代わりに貧困対策を説く。1年延期措置で「延命中」の東京五輪だが、五輪組織委には「チケットをキャンセルしたいが」といった声が日本中から届く。国際オリンピック委員会(IOC)と、コスト削減や新型コロナウイルス対策を検討中で、開閉会式の縮小など変更項目は250を超え、収入減かコスト増に直結する。観戦チケット収入900億円はすでに絵に描いたモチだ。
 開催期間に世界的に新型コロナウイルスが収束していなければ延期五輪の突然死につながる。選手・関係者優先のPCR検査、ワクチン接種体制の確立も難題だ。万全を期さないと、参加を辞退する国や選手も出かねない。
 小池百合子都知事が打ち出した五輪簡素化は皮肉にも、商業化や肥大化が進む五輪を思い切り地味にさせる。7月5日の知事選前に決めた都の新型コロナ対策費は1兆円超に達し、都の財政調整基金は9000億円超の残高を使い切った。2020年度の税収等の減少は2兆円近くに達する懸念がある。誘致に向けたコンパクト五輪の考えは建物の高層化や建築コストの増大を招き、投資も東京への一極集中を進めてしまった。
 東京五輪は、会場整備や関連再開発の効果を見込んだ「発展途上国型」の開催モデルだが、その五輪に伴う開発規制の緩和や再開発はすでにほぼ終えている。ゼネコンや不動産会社は「中止でも実は全く困らない」という現実もある。
「五輪か貧困対策か」は、東京だけの問題ではない選択肢だ。


 高校生拳銃自殺事件で問われる外交官の特権

 東京・八王子の住宅街で6月8日、15歳の男子高校生が拳銃で自殺した事件で、銃の入手ルートは亡くなった元外交官の父親が在外勤務中に非合法に持ち帰っていたとの見方が強まっている。
 自殺に使われた銃は、米スミスアンドウエッソン社製で、米国ではどこでも買える普及品だ。
「日本でもダークウェブを通じて購入はできますが、手続きが複雑で200万円くらいかかる。それより、外務省職員だった父親はアルゼンチンやギリシャに勤務しており、外地で入手して外交官の通関免除で持ち込み、家に保管していたと警察はみているようです」(社会部記者)
 外交官は外交特権を駆使して、銃などを非合法に入手するケースが少なくないという。かつて、タイの首都バンコクの日本人学校で、外交官の子弟が父親の所持する拳銃を学校に持参し、友人に見せびらかすうちに暴発して生徒1人が負傷する事故があった。
 他にも、日本の元駐韓大使が帰国時に国宝級の仏像などを外交特権を盾に持ち帰ったことが発覚して問題になったことがあった。ロシア駐在の日本人外交官も、しばしば持ち出し禁止の絵画やイコンを持ち帰ることが、ロシア外務省で問題となっている。元駐ニュージーランド大使は深夜、酔っ払い運転で駐車中の車に追突して警官につかまったが、外交特権を盾にアルコール検査を拒否し、強引に帰宅。本省にも通報しなかった。この大使は死後、従3位という高い勲位を与えられた。
「国際法の順守」は日本外務省が中国の南シナ海進出やロシアのクリミア併合を非難する際に使う表現だが、外務官僚は裏では私欲や利権のため、法律に平気で違反しているのだ。


 中国政府中枢で不協和音強まる習主席への批判

 中国の習近平主席による対外軍事強硬策が続いている。しかし、米国との対決も辞さないという姿勢に、共産党内部や身内からも批判が強まってきた。それを垣間見せたのが、先の全人代後の李克強首相の談話だ。微妙な言い回しながら、現在中国には依然として月収が1万5,000円程度の国民が6億人いると指摘した点だ。本音では習主席の対外強硬策のために使われる軍事費の増大を抑えて、国内の民生用に資金を振り向けるべきだとの考えがある。
 国務院の総理として、経済の司令塔でもある李首相には、現在の惨憺たる中国経済の実情が見えている。新型コロナウイルス感染拡大で国内の物流は滞り、失業率も統計が取れないほど上昇。結果、最も重要方針である経済成長率を明らかにできないほど追い込まれている。これに加えて今後追い打ちをかけてくるのが、「一帯一路政策」による失敗だ。途上国に貸し付けた資金が返済されず、またコロナ禍でプロジェクトの建設現場の多くが閉鎖されている。
 習主席への批判は公安警察によって封印されてきたが、最近ではさまざまな噂が飛び交っている。その1つが習主席の妻と娘はすでに別居中との情報だ。一人娘はハーバード大学にも留学しており、香港の若者に同情的だとされている。また、党の高級幹部養成機関である中央党学校の教授は、習主席は認知障害があり、この人がトップを続ければ国民全体を不幸にするとのコメントもリークされるなど、中枢内部でさまざまな動きが出始めている。


 日本郵政が豪州子会社の資産売却・事業統合を検討

 日本郵政は、業績不振のオーストラリア物流子会社トール・ホールディングスについて、野村證券をアドバイザーに起用し、資産売却や他社との事業統合に向けた検討に入った。
 トールは、日本郵政が株式上場する直前の2015年5月に6200億円を投じて買収したもので、アジア太平洋地域を中心に50カ国、1200拠点を展開するトール買収を通じて、グローバルロジスティクス(国際物流)への脱皮が目指された。しかし、「買収額は市場価格の1.5倍と高額で、高値掴みの感は拭えなかった」(市場関係者)と、買収当初からその先行きを危ぶむ声は絶えなかった。
 当時の日本郵政関係者によると、「トール買収を主導したのは西室泰三社長(当時)で、ドイツポストによるDHL買収という成功例がモデルだった」という。しかし、資源価格下落などを受けたオーストラリア経済の低迷でトールの業績も落ち込み、17年3月期に4003億円の減損処理に追い込まれた。その後、18年10月には、日本郵便とトールが合弁で国内コントラクトロジスティクスを中心にしたBtoB事業を展開する「JPトールロジスティクス」を設立するなど、シナジー効果の追求を目指したが、20年3月期も86億円の営業損失を計上するなど業績は低迷。そこにかんぽ生命による保険不適切販売と新型コロナウイルス感染拡大が追い打ちをかけ、「このまま赤字を続けるトールを抱え続ける余裕は失われつつある」(中央官庁幹部)とされる。
 日本郵政は経営改善策により21年3月期には営業損益の黒字化を目指しており、トールの売却は考えていないというが、水面下では物流拠点や倉庫などの資産売却や一部事業の譲渡、他社との合弁や事業統合が検討されているようだ。


 金融庁が神経を尖らせる経営危機のレオパレス21

 新型コロナウイルス感染拡大の中、事業会社の売り上げ急減、収益悪化に伴う資金繰り確保や個人の債務返済等が社会問題化している。
 コロナ禍の影響はあらゆる分野に及ぶが、特に影響が深刻とみられている分野に不動産賃貸事業がある。この点について金融庁幹部は、「国交省からも賃貸用ビルの所有者等のテナントに不動産を賃貸する事業を営む事業者に対して、テナントの置かれた状況に配慮して賃料支払いの猶予に応じるなど、柔軟な措置の実施が要請されている。金融機関においても中小事業者の家賃支払いや個人住宅ローンの支払いが非常に厳しくなっている状況を踏まえ、不動産事業者や個人住宅ローンについて、元本据置等の条件変更にしっかり対応していただきたい」と指摘する。
 いわゆる「家賃問題」で、国会でも大きく取り上げられた重要課題だ。対象は、入居者・テナントである中小事業者・個人の家賃支払いのほか、ホテル、レジャー施設、簡易宿泊所、民泊施設など幅広い業種に及ぶ。金融庁では、これら業種に対する金融機関の対応について、特別ヒアリングで確認することにしている。
 焦点とみられているのは、サブリース事業者への対応だ。試金石とみられるのは経営危機に瀕しているレオパレス21をどうするのか。レオパレスの取引先数は下請け、孫請けを含め約4500社、関連する雇用は約22万人に及ぶ。連鎖倒産も考慮すれば大き過ぎて潰せない。不動産事業に対し潤沢な資金供給を要請する背景もここにありそうだ。


 キャッシュレス決済の「後進性」払拭なるか

 政府はキャッシュレス決済の普及と消費増税後の景気下支えを狙って、昨年10月から買い物の際、最大5%を消費者に還元する事業を始めた。経済産業省によると、今春までに30億件の決済があったが、6月末に事業は終わる。115万店が参加し、対象店舗の半数を超える規模に達したが、期限を過ぎた後も加盟店舗が広がるか疑問視する声が多い。
 経産省によると、中国や韓国のキャッシュレス決済比率は6〜9割、欧米でも4〜6割だが、日本は2割程度にとどまる。ネックとなっているのが手数料の高さや専用端末の設置費用の高さ、さらには入金までの時間が長い点だ。日本では店舗が決済会社に払う業界平均の手数料は3.24%で、利益率が1〜2%の小売業では「キャッシュレスで売れば売るほど赤字になる」という。一方、中国での手数料は0.5%。医療や教育、福祉介護では0%だ。
 こうした日本のキャッシュレス決済の「後進性」を突いて攻め込んでいるのが中国勢だ。中国のアリババ集団のスマホ決済「アリペイ」では、事業者は前日の売上高を毎日無料で口座に入金することができる。騰訊控股(テンセント)の「ウィーチャットペイ」も3日後の入金を可能にしている。
 経産省はポイント還元が終わった7月以降も、決済事業者に手数料や入金サイクルの開示を求める方針を示すなどしてキャッシュレス後進国の汚名払拭に躍起だが、「現金志向が強い国民性もあり、どこまで普及するか見通せない」(大手証券アナリスト)と指摘する声も多い。


 またも躓いた楽天モバイル、迷走続きで先行きに暗雲

「スマートフォン料金値下げの旗手」との期待を担って4月に本格参戦した第4の携帯電話事業者・楽天モバイルは、スタート前から迷走を続けていたが、サービス開始から3カ月もたたないうちに、またも躓いた。独自開発したスマホの対応周波数を無断で変えたため、総務省の怒りを買ってしまったのだ。
 問題になったのは、「楽天ミニ」。名刺サイズの小型端末で、楽天グループのネット通販や金融サービスのアプリを標準搭載している旗艦モデルだ。この独自スマホが対応する周波数の一部を、米国など海外でのローミングの利便性を高めようと、国内大手3社が使う周波数を米国の通信会社などが使う周波数に無断で変えてしまったのだ。
 楽天モバイルの2019年10月の事業スタートは基地局整備の不手際から半年遅れ。商用サービス開始の4月8日には、唯一の料金プランの内容を突然変更、肝心の販売店もコロナ禍で初日から休業した。6月に予定していた「5G」のサービスも、
ソフト開発の遅れで3カ月延期することになった。
「通信業界に価格破壊と新たなサービスを起こす」と豪語する三木谷浩史・楽天会長兼社長だが、楽天の20年1〜3月期の連結決算は携帯電話事業の先行投資が重荷になり353億円の最終赤字を計上、4〜6月期もコロナ禍の影響が避けられそうにない。低価格やデータ通信の使い放題が売りで、先着300万人に1年間無料の大盤振る舞いを展開中だが、自社の格安スマホからの移行は進まず、他社からの乗り換えも低調のようだ。
 脆弱な通信網に加え、人気のiPhoneもないため、消費者の反応は鈍い。「第4極」への期待は、落胆に変わりつつある。


 武田薬品のアリナミンVは誰の手に

 武田コンシューマーヘルスケアの売却交渉が水面下で進んでいる。あの「アリナミンV」や風邪薬「ベンザブロック」を販売する製薬会社が売りに出されているのだ。
 武田コンシューマーヘルスケアは、武田薬品工業が2016年4月に分社化して立ち上げた大衆薬専門の子会社だ。親会社の武田薬品工業がアイルランドの製薬大手シャイアーを買収し、抗がん剤など医療用医薬品分野に経営資源を特化する方針を打ち出したことで、コア事業から外れた武田コンシューマーヘルスケアの売却話が燻(くすぶ)っている。「シャイアー買収を手掛けたクリストフ・ウェバー社長は武田コンシューマーの売却を否定していますが、ここにきて野村證券をファイナンシャルアドバイザーに起用し、売却に向け複数の企業や投資ファンドとの交渉を進めている」(大手証券幹部)とされる。
 焦点となる売却先だが、市場では「本命は無借金で手元現金に余裕のある大正製薬、対抗馬はロート製薬」(市場関係者)という見方が有力だ。武田コンシューマーの売却想定額は四千億円を下らないとみられており、買えるのは大正製薬ぐらいというのが理由だが、「大正製薬はドリンク剤リポビタンや風邪薬パブロンを持っており、武田コンシューマーを買う利点があるか疑問だ」(同)との見方もある。一方、ロート製薬には、武田コンシューマーの初代社長であった杉本雅史氏が昨年六月に社長に迎えられており、「古巣買収」で捲土重来という可能性もある。


 日銀・金融庁が警鐘鳴らすCLOのリスク管理

 日銀と金融庁は6月2日、CLO(ローン担保証券)に関する初の合同調査結果「本邦金融機関の海外クレジット投融資の動向」を発表した。2019年9月時点の大手行のCLOの保有額は合計13.8兆円で、3年半前の2.7倍に拡大。世界のCLOの2割弱を保有する、最大の投資家になっている。
 そのCLOの組成・流通市場である米国が新型コロナウイルスの感染拡大と警察官による黒人暴行死に端を発した抗議デモに揺れている。企業の倒産も急増しており、経済の先行きが懸念されている。企業倒産の急増は、CLOの原資産となっている貸付債権の不良債権化を通じてCLOのデフォルトに波及しかねない。日銀と金融庁の合同調査はそうしたリスクへの警鐘の意味がある。
 CLOは、投資適格未満の信用力の低い企業に対する貸し出し、いわゆるレバレッジド・ローンを束ねて証券化した金融商品で、09年のリーマンショックで問題となったCDO(債務担保証券)の1種類だ。利回りが高く、国内に有望な投資対象を欠く日本の大手銀行がこぞって触手を伸ばした。
 日本の金融機関は「CLOの投資では、最も信用力の高いトリプルAの格付けの商品に絞って購入しているほか、投資に当たっては商品スキームについて入念なデューデリジェンス(資産査定)を行い、裏付けとなっているローンについても米国拠点を通じて詳細なモニタリングを継続して実施している」(最大の保有額を持つ農林中央金庫の関係者)と語るが、市場が混乱した場合、CLOは最初にデフォルトしかねない危うい商品であることに変わりはない。


 日産の再建策は力不足、巨額赤字が膨らむ可能性

 2020年3月期決算で6712億円もの巨額赤字に転落した日産自動車。4月に1000億円程度と見込んでいたが、構造改革費用や減損損失で計6030億円を計上。蓋を開ければ5000億円も損失を積み増した。元会長のカルロス・ゴーン被告が1999年度に打ち出したリストラ計画「日産リバイバルプラン」(NRP)で発生した約7100億円の特別損失に迫る規模だ。
 しかし、「まだ損失が膨らむ可能性がある」と多くのアナリストは指摘する。NRPは村山工場など5工場の閉鎖や2万1000人の従業員削減、さらに「系列解体」を矢継ぎ早に実施。特に、系列解体では部品の取引先を半分に減らすことで「大量調達による購買費用の削減」を実施。その結果、当時の日本鋼管(NKK)と川崎製鉄(現JFEホールディングス)が経営統合に踏み切るなど、日本の産業界に大きな影響を与えた。その大胆な取り組みでゴーン被告は九九年度を底にして日産をV字回復につなげ、後の同氏の“神格化Uにつながった。
 NRPと比較して、今回の再建策はどうか。インドネシア工場やスペイン工場の閉鎖などで生産能力を2割縮小し、540万台体制にすることや3000億円の固定費の削減、低価格ブランド「ダットサン」のロシアからの撤退などを打ち出した。
 しかし、不振が続く欧州や南米などでは事業を縮小するものの、生産・販売網は維持したままだ。インドネシア工場もすでに停止しており、スペイン工場も商用車を中心としているため主力拠点ではない。「あらかた予想された範囲内の内容で、再建策としては何とも力不足の感が否めない。他の工場の閉鎖なども今後必要になる」と市場も厳しい。現に発表翌日の株価も11%下落した。
 さらに気になるのが43%の出資を受ける筆頭株主のルノーとの関係だ。今回の計画では「経営統合」については棚上げしたが、17年度までルノーの連結純利益に占める日産からの持ち分法投資利益などは5割以上を占め、ルノーの業績は日産が下支えしてきた。
 ルノーに15%出資する仏政府の動向も不安材料となる。同社への支援として50億ユーロの資金支援を実施したが、「裏でフランス国内での雇用確保や欧州各メーカーと共同で進める電池開発プロジェクトへの参画を条件にしている」(日産幹部)との指摘もあり、日産の業績回復が遅れれば、またルノーを通じて仏政府の介入が強まる懸念がある。「何も決められない」(同)と揶揄される内田誠社長兼CEOの前途は厳しい。


 手数料ゼロで独り勝ち、SBI北尾氏の勝負手は

 SBIホールディングスが設立20年の節目だった昨秋、北尾吉孝社長は「向こう3年計画で手数料をゼロにする」と宣言した。預かり資産残高はともかく、口座数では北尾氏の古巣である野村證券を抜いており、ネット証券界で最終戦争を仕掛けようというわけだ。実際、SBI証券に食らいつくのは楽天証券ぐらいで、マネックス証券や松井証券は先行き厳しいと見る関係者も多い。
 ただしSBIも、手数料ゼロを仕掛けるならば当然、それを補う事業の強化、拡大は必須となる。北尾氏は、個人向けのリテール分野は制圧するメドが立ったと考えており、残るは車の両輪である、法人向けのホールセール分野になる。この法人向けも、相次ぐ地銀との提携、さらに三井住友フィナンシャルグループとも広範な提携にこぎつけたことで、少なくても金融法人分野では布石を打ってきたという自負がある。
 北尾氏に残る課題は、SBIHDにとって、いわば最大の難関である大企業中心の事業法人分野だ。SBIは、ベンチャー企業などの株式公開案件は強みがあるが、大企業相手の社債や増資の引き受け、M&A業務となると、野村や大和証券などの大手証券やメガバンクががっちりと顧客を握っている。ここを切り崩すのは、いかに北尾氏が過去、野村で事法担当の経験があるとはいえ、簡単なことではない。
 だが、北尾氏は本気のようだ。6月からは自ら大企業を訪問し始めているほか、1年前にSBI証券副社長に就いた廣田俊夫氏がキーマンになりそうだという声が多い。野村證券の役員を経てみずほ証券でも専務を務め、SBI証券では現在、法人部門を管掌。北尾氏の右腕として、どこまで大企業を口説き落とせるか注目されている。
 もう1点、金融商品でも北尾氏には腹案があるらしい。昔、野村證券の略称「中国ファンド」がヒットしたが、この中期国債に着目した新商品の組成を考えているというのだ。商品設計など、具体的なことはまだ藪の中だが、北尾氏のアイデアはすでに詰めの段階と目されている。大手金融の首脳は、「昔とは金利水準が違い過ぎて、T令和版の中国ファンドUなどできるのか。やれてもペイするのか」と訝るが、そこはしたたかな北尾氏のこと、金融庁OBの相次ぐ登用や地銀連合、メガバンクとの提携などの過程で何か妙案を思いついたのか。来年一月の誕生日で古希を迎える北尾氏、そろそろ大勝負に出るのだろう。


 コロナ禍で市場が蒸発、住宅産業が迎える試練

 経済開発協力機構(OECD)は6月10日、このまま感染が落ち着いた場合でも日本の2020年(暦年)の実質経済成長率がマイナス6%に陥るとの見通しを発表するなど、新型コロナウイルス禍は日本経済に甚大なダメージを及ぼすのは必至。住宅産業ももちろん例外でない。すでに建築工事の遅れは表面化し、住宅展示場の休業要請や対面での営業自粛が受注減となって響き、この先の大きな市場消失は避けられない。
 そんな逆風が吹く矢先、シンクタンク大手の野村総合研究所が住宅産業を震えさせるショッキングな市場予測をまとめた。19年度に約88万戸だった新設住宅着工戸数は20年度に73万戸、21年度は74万戸に縮小すると予測した。この水準は単年度としては「リーマンショック」の直撃を受けた09年度の78万戸をさらに下回る。
 リーマンショック時を上回る市場蒸発が2年も続くようなら、工業化(プレハブ)住宅から60年程度の歴史しかない住宅産業にはまさに未曽有の危機の到来だ。超ド級の市場蒸発に過当競争体質の現状下で持ちこたえられるのかとの懸念に対する答えは「ノー」というしかない。
 野村総研の予測は、新型コロナウイルスの新設住宅着工への影響は20年度の第3四半期(10〜12月期)にピークを迎え、その後は日本経済の回復とともに非常に緩やかに回復すると見通す。しかし、中長期予測では22年度の80万戸に戻って以降は、人口減などから下降線をたどる見通しだ。
 野村総研は新型コロナウイルス禍に見舞われる前に20、21年度の新設住宅着工戸数を予測しており、今回の予測は両年度合算で従来予測から20万戸が吹き飛ぶ勘定だ。コロナ禍収束後にこの減少分を取り戻せる可能性はあるものの、リーマンショックの際の経験から20万戸すべてというわけにはいかない。
 住宅産業は自動車、電機などの産業同様にすそ野が広く、さらに市場プレーヤーが多い。それだけに、疲弊度が大きければ日本経済復活への道も遠のく。消費税率10%への引き上げに向けて手厚く施された住宅政策も、コロナ禍でその効果は打ち消されたも同然だろう。所得や雇用が一段と厳しさを増す明日の見えない生活環境にあって、住宅ローンを組んでT生涯で最も高い買い物Uの住宅を取得しようとする消費者心理は萎えるに違いない。
 リーマンショックによる市場蒸発から10年余り、住宅大手は構造改革などを通じて体力を持ち直してきた。その矢先に襲ったコロナ禍は、還暦を超えた住宅産業を再び試練の崖っぷちに追い詰めかねない。


 若い女性が殺到する「GLP-1ダイエット」

 若い女性のダイエットは今もブームが続いているが、昨今、「GLP-1ダイエット」というダイエット治療が人気になっている。
 GLP-1ダイエットとは2型糖尿病治療薬「ビクトーザ(一般名はリラグルチド)」を投与するダイエット法。美容クリニックや一部の透析クリニックが「トレーニングや食事制限より健康的に痩せられる」とネットやテレビで宣伝し、痩せたい若い女性を集めているのである。昨年、女性YouTuberが医師の解説付きでビクトーザに痩せる効果があると紹介した時には、ネット上に不適切使用だという批判や賛同する声が上がり炎上したほどだ。
 ビクトーザはGLP-1受容体作動薬と呼ばれる糖尿病治療薬。糖尿病患者に投与するインスリンは余分な糖分を吸収せず体外に排出する役目をするが、そのインスリンの分泌を促す生体内ホルモンで、副次的に「食欲抑制」効果がある。ビクトーザを投与すると、食事制限をしなくても肥満を抑制することが知られている。
 メーカーのノボノルディスクファーマは糖尿病薬とは別に肥満症治療薬として米国とヨーロッパ、韓国で承認を受け、「サクセンダ」という医薬品名で販売している。承認した韓国ではサクセンダを投与するGLP-1ダイエットが大流行し、目下、乱用が問題になっているほどだ。
 日本でもビクトーザの食欲抑制効果に目をつけた美容クリニックが「GLP-1メディカルダイエット」の名称でビクトーザやサクセンダを使うダイエットを開始、ネットやテレビで「週1回の注射で健康的に痩せられる」と宣伝している。さらにはインジェクターで自己注射できることから遠隔医療にも手を伸ばしている。肥満症治療は未承認のため自由診療で、料金は月に5万円からサプリメント付きで15万円のものまである。中には分割払いで月5000円程度という美容クリニックもある。
 もちろん、ビクトーザもサクセンダにも副作用がある。嘔吐や便秘、逆に下痢などの消化器症状を起こすこともあれば、稀に低血糖、膵炎、腸閉塞などを起こすこともあるとされている。だが、糖尿病専門医の乱用を戒める声もなんのその、ネット上では美容クリニックのGLP-1ダイエットの宣伝が溢れ、ダイエットを願う女性が殺到。いまや、かつてのED(勃起不全)治療薬「バイアグラ」同様の様相だ。


 朝日新聞が社主制度廃止、目の上のタンコブ消える

 朝日新聞社が社主制度を廃止する。6月24日開催の定時株主総会の議案にかけたためだ。2016年に上野尚一社主が、さらに今年3月には村山美知子社主が亡くなったのを機に、朝日独特の社主制度を廃止し、代わりに創業者顕彰委員会制度を新設する。
 朝日の歴代経営陣にとって目の上のタンコブだった大株主の社主という存在がなくなり、晴れてサラリーマン経営に移行することになる。これにより、就任6年目に突入する渡辺雅隆社長の長期政権はより強固なものになるだろう。
 朝日新聞社は村山龍平、上野理一が創業したが、人事権の乱用に端を発した1960年代の村山騒動によって村山長挙社長と上野精一会長が退任し、以来、創業家は大株主ではありながら取締役には就かず、66年に設けられた社主を務めるのが習わしとなってきた。
 社主は経営に容喙しない儀礼的な地位とはいえ、朝日の歴代経営陣は、35.6%の株を持つ筆頭株主の村山家の存在に神経を尖らせてきた。しかし美知子社主は子供がおらず、甥の恭平氏とも不仲だったため、テレビ朝日の広瀬道貞、朝日の秋山耿太郎両トップとの交渉の末、美知子社主持ち分のうち11%余をテレ朝が購入し、9.99%を創業者の蒐集した美術品を集めた香雪美術館に寄付することになった。この時点で村山家の影響力は大きく減退したが、今回の死去に伴い、まだ彼女が持っていた35万株(11.02%)も同美術館に贈与される。同美術館が疑似的な持ち株会社になる。
 朝日経営陣は高齢の美知子社主の死去を待って社主制度を消滅させる構想を早くから抱いていたが、美知子氏よりも16歳も若い上野尚一社主が先に急逝したことでその目算が狂った。上野氏が16年に肺癌で亡くなると、次男の聖二氏(朝日新聞デジタルイノベーション本部次長)側から社主継承の要望がなされたが、渡辺社長は首を縦に振らなかった。朝日新聞社の定款では「社主2名をおく」、「村山、上野両家の相続人よりそれぞれ1名がその地位を継承する」と定めているため、上野家の嫡流の聖二氏には社主の資格がある。聖二氏を袖にする渡辺氏の振る舞いには元社長の中江利忠氏も「渡辺は思い上がっている」と怒り心頭だったといわれる。
 朝日の株主構成は、筆頭株主が25.48%を持つ従業員持ち株会、それに今後21%余を持つことになる香雪美術館が登場し、次いで11.88%のテレ朝ホールディングスとなる。これらは事実上、朝日経営陣の息のかかった大株主といえるため、経営の緊張感は失われそうだ。


 黒川賭け麻雀事件で産経の処分が甘い理由

 黒川弘務前東京高検検事長との賭け麻雀問題で、産経新聞社の対応はどうみても甘い。産経記者の自宅が麻雀会場となり賭場を開場した格好だし、ハイヤーで自宅まで送っていた。しかも情報源の黒川氏の検察生命を絶った点を見ても、罪は重い。それなのに朝日と同じ停職1カ月の処分。「上層部の責任が問われるのを恐れて、最初から甘い処分にするつもりで朝日と横並びにした」と産経記者は言うが、背後には同じ社会部出身の飯塚浩彦社長の保身がある。
 そもそも大阪社会部出身の飯塚氏は、ジェネックスというコンサル会社を頼り約400人を退職させる人員削減を実施する半面、同じ大阪社会部出身者を重用、鳥居洋介取締役(編集担当)や雀卓を囲んでいた司法キャップも同じ大阪社会部系だ。「実態は指名解雇に近い人減らしなのに、大阪社会部出身者ばかり優遇し、好き嫌い人事が激しい」(産経記者)と社内では不満が高まっていた。
 飯塚氏は大阪育ちで東京の政財界や同業者に知己はなく、ベテラン記者も「あんな馬鹿を取材先に紹介できない」と見下していた。それゆえ一層大阪出身者で固まるのだろうか。ニューヨーク・タイムズをまねて物販もするサイト「産経アンリミテッド」を始めると喧伝してきたが一向に進まず、「行き当たりばったりで何をやりたいのかわからない」とベテラン記者は見る。だから「飯塚に一泡吹かせたい」(産経記者)という反飯塚の空気が社内に充満していた。それを知ってか、飯塚氏は「よくあれだけ食い込んだ」と雀卓を囲んだ記者2人に同情し、自身にも跳ね返りかねない重い処分は見送ってお茶を濁したとみえる。
 気の毒なのは、産経の伏魔殿に足をすくわれた黒川氏というわけか。


 NPOがコマツなど批判、重機販売で人権侵害助長

 ヒスイの世界的産地、ミャンマー北部カチン州で、日本のコマツ、米国のキャタピラー、スウェーデンのボルボ建設機械という建設機械大手3社が自社製品を販売することで人権侵害を助長していると非難する声明を、スウェーデンの非営利組織(NPO)スウェドウオッチが出した。
 2年前にも社名を挙げて警告したにもかかわらず、改善されていないとし、自社製品が及ぼす負の影響を軽減する方策を即座に検討すべきだと強く求めている。
 カチン州は世界のヒスイの90%を生産しているといわれる。2000年以降、重機が大量に運び込まれ、採掘が活発化。これに伴い、ヒスイ鉱山の地盤が急速に緩み、地滑りが多発するようになった。ヒスイ採掘の中心地であるカチン州パカン地区では18年半ば以降、地滑りで210人が犠牲になった。16年時点で、カチン州で稼働していた重機は1万台超、この大半がコマツなど3社製だった。
 問題となっているのは地滑りだけではない。急増した労働者を収容所のような施設に押し込むなど労働環境は劣悪で、薬物に走り、依存症に陥る労働者が少なくない。また、性的搾取も表面化している。
「活動を通じた人権への負の影響を回避する」「製品やサービスと直接つながる人権への負の影響を防止、軽減する」──国連のビジネスと人権に関する指導原則には、企業の責任についてこのように明記されている。スウェドウオッチは、3社はこの原則に反しており、「人権侵害に加担している」と断罪している。


 香港への国家安全法導入で支持表明した英銀に批判

 英金融大手のHSBCホールディングスとスタンダード・チャータード(スタンチャート)が、中国政府が香港への導入方針を決めた国家安全法への支持を表明したことから、批判を浴びている。
 HSBCはもともと、大英帝国の植民地だった香港で1865年に創設され、傘下に香港上海銀行を持つ。香港の中国への返還を控えた1993年、英銀を買収する形でロンドンに本社を移した。これまで香港の政治情勢に立ち入ることは慎重に避けてきたが、中国国営メディアや香港の前行政長官の梁振英氏ら親中派の大物政治家から立場を明確にするよう迫られ、国家安全法を支持する姿勢を表明した。
 同じく大英帝国時代に植民地政策の一翼を担う銀行として創設されたスタンチャートも、圧力に屈して、「長期的に見て香港の経済・社会の安定維持に寄与する」として、国家安全法への支持を表明した。
 これを受けて英下院外交委員会のトム・タジェンダット委員長はツイッターで、HSBCとスタンチャートは「独裁国家による自由の弾圧と法規範の弱体化」を支持したことになると批判。米国のリック・スコット上院議員も、「(HSBCは)人権よりも利益を選んだ」と投稿。ポンペオ米国務長官は、欧州金融最大手のHSBCが国家安全法を支持したことを批判するとともに、中国の「威圧的ないじめ戦術」を非難した。
 HSBCやスタンチャートが中国寄りの姿勢を強めれば、顧客が口座を閉鎖したり、投資家が資金を引き揚げたりする動きが出てくる可能性もある。


 英国が香港のBNO保有者230万人受け入れ公言

 ボリス・ジョンソン英首相は自ら新型コロナウイルスに感染し、一時は危篤状態に陥った。それ故、中国への批判は強烈である。全人代の香港国家安全法制定に激怒して「英国は肩をすぼめて立ち去ることはない」とした上、香港市民で英国籍パスポート(BNO=British National Overseas=英国海外市民=渡航文書)保有者は、いつでも英国が受け入れると公言した。
 香港返還に際して英国は23万余の香港人の英国移住を受け入れた。残りの市民に対しても英国にいつでも渡航して半年滞在できるBNOを交付した。返還後の出生者には適用されないが、植民地時代の香港人には責任を持つということである。
 英国、カナダ、オーストラリアの外相は連名で香港国家安全法に反対し、EU議会も「香港基本法を遵守すべき」と中国を痛烈に批判した。
 英国は華為技術(ファーウェイ)排斥に曖昧だった態度をガラリと改め、中国の5G排斥に舵を切り替えた。クリス・パッテン前香港総督は「中国は香港を裏切った。西側は中国の無謀を冷笑しているだけでは済まされない」と語気を強めた。「一国二制度を50年保証するとした1984年の『英中合意』を無視し、香港基本法に謳われた2047年までの香港の高度の自治の保障、言論の自由を踏みにじる暴挙」とし、英国籍パスポートを持つ香港人の優遇策延長を確約したのだ。香港の旧宗主国だけに発言に重みがある。
 すると香港財界に動きが出た。不動産ビジネスの三羽烏、長江実業、ヘンダーソンランド、新鴻基は香港国家安全法を支持すると表明した。
 また、香港の英国系企業大手スワイアグループ、ギャラクシー、ジャーディン・マセソンなど老舗企業幹部も、英国政府の中国批判を横目に見ながら香港国家安全法を支持すると表明した。
 スワイアグループは傘下にキャセイパシフィック航空。ジャーディンも香港の公共工事から貿易にまで手を広げてきた。アヘン戦争時代から香港に盤踞する英国系企業である。
 HSBCも重い腰を上げた。6月8日、香港国家安全条例(法)を支持すると言い出したのだ。HSBCは本社を英国へ移転し銀行業務の安全をいち早く措置したが、何しろ香港ドルの発券銀行であり、中国とは腐れ縁がある。
 昨年の香港大乱では民主派諸団体がクラウドファンディングで世界から集めた義援金の口座を凍結するなど、中国共産党寄りの挙に出たため「勇武派」の攻撃目標とされ、HSBCの多くの支店でATMが破壊された。さて、香港の行方は──。


 香港ドル防衛にHKMAが8回介入

 香港ドルは特殊な通貨で、完全な米ドルペッグ制をとっている。
 発券銀行はその額面をドルで通貨当局に預託する。だから世界一安全な通貨といわれ、この制度があるからこそ、人民元はドルに自由に交換できる。逆にいえば香港の為替市場が崩落したら人民元をドルに交換することはたいそう難しくなる。中国共産党は表面の強気な対米姿勢とは裏腹に個人資産防衛となると、まるで言行不一致の行動をとる。
 昨年11月27日にトランプは「香港民主人権法」に署名した。香港の民主、自由が脅かされた場合、その担当の中国政治家の在米資産を凍結し、入国を拒否できるという制裁条項がある。直前、中国共産党の高官の秘書たち、家族らはどっと渡米し、隠し口座の移管、解約、名義変更に没頭した。
 5月28日、全人代は香港国家安全法を採択した。この法律が成立しそうだとの噂が流れるやいなや資金のエクソダスが始まり、スイスとシンガポールへ向かった。
 香港には大陸の人々の銀行口座、金融資産が5000億米ドル前後あるといわれる。一部では「損切り」の不動産売却も起こった。
 このため年初来、香港通貨管理局(HKMA)は八回、市場介入して為替レートを防衛した。
 6月5日には1日に2回も介入した。2回目の介入だけでも38億8000万香港ドルを注ぎ込んだ。年初来の介入合計は207億香港ドルと現地紙は伝えている。
 ところが、目的が変わっていた。
 エクソダス対応で香港ドルの下落を防ぐ対応だったものが、6月7日からは逆に香港ドルの上限、1米ドル=7.75ドルより高くなる事態を防ぐための香港ドル買い介入なのである。なぜか──。
 アリババについで中国第2位の通販グループ、京東集団は、香港株式市場へ上場を控えていた。アリババもNY市場と重複で香港に上場し、1兆2000億円をかき集めた。
 投資家の期待が集まり、香港ドルの需要が活発化し、政治相場は遠のいた。所詮、香港人の為替も株式市場も賭場なのである。
 その香港市場上場企業の中でも上位銘柄はテンセント、チャイナ・モバイル、中国建設、中国工商銀行、平安保険など中国企業である。
 過去半世紀トップにあった長江実業はいまや11位に転落している。
 香港市場に上場している中国企業は実に1241社もある。








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