巻頭言
枝廣淳子の


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枝廣淳子
(幸せ経済社会研究所所長)





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地殻変動的変化を
企業は認識しているか

 私たち人間はこれまで、「母なる地球はどこまでも大きく、自分たちが何をやっても、地球に影響を与えることはない」と考えていました。かつては、人の力は限られており、例えば、木を切るにしても、斧を使って1日に数本切るのがやっとでした。だから、私たち人間が何をやっても、母なる大地に影響を与えることはありませんでした。しかし今では、電動チェーンソーを使えば、あっという間に1人で1日に数十本も伐採できる力を、手にしているのです。
 私たちは「人間が何をやっても地球に影響は及ばない」というメンタルモデルが変わらないまま、科学技術の力によって、大量の資源を地球から取り出し、大量の廃棄物を地球に戻すようになりました。その結果、森林消失や環境汚染、温暖化などのさまざまな環境問題が顕在化するようになってきました。
 このような地球環境の悪化の顕在化を受けて、近年、私たちの「人間と地球の関係性」に関するメンタルモデルが変わりつつあることを感じます。
 私はこれを「地殻変動的変化」と呼んでいます。「企業とは何か、企業の目的は何なのか」「資本主義とは何か、どうあるべきなのか」「経済とは何か、どうあるべきか」といった根源的な問い直しが始まっているのです。
「人間が地球を変えつつある」という警鐘は、私を含め環境派がかねてより鳴らしていたものです。しかし、そのような声は少数派であり、経済の主流派が耳を貸すことはありませんでした。それが今では、大手企業の経営者や金融機関のトップなど、経済の主流派が、それを認め、経済や企業のあり方を変えようとし、自分たちも変わろうとしています。
 その1つの表れが、昨年8月に米国の経営者の団体である「ビジネス・ラウンドテーブル」が出した企業トップ181人の署名の入った、「企業の目的に関する声明」という公開書簡です。そこには「企業の目的は、あらゆる人々に資する経済を促進することである」と高らかに述べられています。
 1970年代に経済学者ミルトン・フリードマン氏が主張した「企業の唯一の目的は、株主価値を最大化することだ」という考え方に、多くの企業が従って企業経営をしてきました。しかし、「今やそうではない」と、企業の目的が再定義されつつあるのです。
 今年一月に開催された世界経済フォーラム(ダボス会議)でも、「資本主義の再定義」が大きなテーマの一つとなりました。株主への利益を最優先する従来のやり方から、環境にも従業員にも社会にも配慮した「ステークホルダー資本主義」へのシフトが必要だと主張しています。
 世界中に広がる化石燃料からのダイベストメント(投資引き揚げ)にしても、最近のマイクロソフト社の「2030年までにCO2排出量を実質マイナスにする」という宣言にしても、大きなパラダイムシフトの表れです。こうした動きには、「天動説」から「地動説」へのシフトに匹敵するほどの大きなパラダイムシフトが企業や経済の根幹で起こりつつあると感じています。
 何から何へのシフトなのでしょうか?
「自然は経済のサブシステムである」(原材料の供給と廃棄物の吸収という部分)というパラダイムから、「経済は自然のサブシステムである」というパラダイムへのシフトです。
 このパラダイムシフトを受けて、市場や競争のルールが変わり始めています。経済活動や投資利益を守るために、「経済的利益のために自然を破壊することは許されない」というルールに変わりつつあります。化石燃料からのダイベストメントはその一例です。
 ルール変更を受け、「経済的利益を最大化するためには、自然や社会に悪影響を及ぼしても構わない」と考えている企業は、今後、市場から淘汰されることになるでしょう。
 この大きなパラダイムシフトをしっかりと認識した上で、企業経営をしていく必要があります。
(幸せ経済社会研究所所長)


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