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エボラウイルスを扱うのは感染症研究所村山庁舎(写真/時事)


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エボラウイルス用の防護服を着るコンゴの医療従事者(写真/時事)


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■医療の課題
 ――木村良一(ジャーナリスト・作家)


「エボラウイルス」 の輸入をどう考えるか
“五輪口実”は本来の危機管理から逸脱

■エボラ出血熱は極めて致死率の高い感染症だ。そんな感染症の病原体ウイルスを初めて持ち込もうというのだから、対応は慎重でなくてはならない 

 この夏にも、エボラウイルスが初めて日本に持ち込まれる。東京五輪・パラリンピックを来年に控える中、厚生労働省はエボラ出血熱が日本国内で発生した場合に備え、検査用に輸入することを決めた。しかし、五輪を口実にした輸入はいかがなものか。本来の危機管理から逸脱している。
 エボラウイルスはエボラ出血熱の病原体だ。感染すると、高熱を出して全身から血を流しながら死んでいく。治療薬もワクチンもなく、高致死率のキラーウイルスとして恐れられてきた──。

未知のウイルスと戦う
あの映画を思い出す


 1967年7月の内戦が続く中央アフリカのある地域。そこに駐留していたアメリカ陸軍の部隊を未知の感染症が襲う。
 多くの兵士が高熱を出して次々と倒れ、内臓から出血し、悶え苦しみながら死んでいった。ヘリで飛来した陸軍の研究チームは、その光景に驚き、感染した兵士の1人から血液を採取して陸軍本部に持ち帰った。病原体を特定するとともに培養して生物兵器として利用するためだった。
 現場のジャングルには爆弾が投下され、部隊の兵士からテントや機材、車両まですべて焼き払われ、原因不明の感染症事件は闇に葬られた。
 この事件から数カ月後、今度は近くの小さな村で村人たちがやはり高熱と出血で倒れて死に始める。病原体を調べるためにその村に、ダスティン・ホフマン扮するアメリカ陸軍感染症研究所の軍医が派遣される。
 キラーウイルスとの戦いを描いた1995年製作のアメリカ映画『アウトブレイク』である。1976年8月にアフリカのザイール(現・コンゴ民主共和国)で出現し、初めて人類を襲ったエボラ出血熱をモデルにしている。
 アウトブレイクとは、特定の地域や集団での感染症の流行を指す。これに対し、パンデミックは感染症の地球規模での大流行を意味する。
 ダスティン・ホフマン扮する軍医は、宇宙服のような黄色い防護服で全身を覆って村を調査して病原体のウイルスを突き止める。ウイルスは陸軍部隊を襲った毒性の強いあのウイルスと同じだった。
 ウイルスをもともと保有する自然宿主は、特定の種類のサルだった。サルには免疫力があり、感染していても発病しなかった。このサルがアフリカから密輸され、今度はアメリカ本土の町で被害が広がってしまう。しかもウイルスは突然変異し、空気感染する性質を獲得して感染力を増していた。
 軍医は証拠隠滅を図ろうとする陸軍幹部の妨害にも屈することなく、逃げたサルを捕獲し、そのサルの血清を投与することで感染者を救出していく。
 映画は毒性と感染力の強いウイルスを生物兵器に転用しようと企む、軍部という大きな組織の暗部も描き出していた。
 映画が公開された時、私は厚生省(当時)の記者クラブに席を置いて医学・医療の取材と勉強を本格的に始めた頃だった。だからビデオも借りてきて見た記憶がある。

エボラは患者の吐瀉物や
便から感染する


 ただ、今思うと、問題のウイルスが変異してインフルエンザウイルスのように空気感染するというのはウイルス学上、あり得ない。観客を驚かせてストーリーに引き込もうとしたのだと思うが、モデルのエボラウイルスまでもが空気感染するように受け取られる。もう少し配慮をしてほしかった。
 エボラウイルスは患者(感染者が発病すると患者になる)の血液や体液に多く存在し、大半は患者の血液の混ざった吐瀉物や便が傷口や粘膜に付着することで感染する。感染者が発病して患者となって初めて他人に感染するが、基本的には患者との濃厚な接触がない限り、感染は起きない。
 ひとたび感染すると、3日から10日で発症し、高熱を出して嘔吐と下痢を繰り返し、歯茎や鼻、消化器から出血する。効果と安全性が立証された治療薬やワクチンはなく、治療は対処療法が中心となる。感染者のうち最大で90%が命を落とす。エボラウイルスの自然宿主、つまり元来の住み家は熱帯雨林のジャングルの中に生息する動物(たとえばオオコウモリ)の体内といわれている。
 一方、インフルエンザウイルスは感染者の飛沫(咳やくしゃみで飛び散るしぶき)を浴びたり(飛沫感染)、飛沫の付着したドアノブやテーブルを触った後にその手で鼻をこすったり(接触感染)すると、感染する。
 この感染ルートとは別に飛沫核感染といって乾燥した飛沫の粒子が空気中を漂ってそれを吸い込むことで感染するともいわれる。これが空気感染で、インフルエンザウイルスのほうが、エボラウイルスよりも感染力が強いことになる。
 人工的にウイルスを作り出せば別だが、エボラウイルスのようなキラーウイルスが空気感染することはウイルス学上あり得ない。
 このエボラウイルスが日本に初めて持ち込まれる。7月1日、根本匠厚生労働相と東京都武蔵村山市の藤野勝市長が会談して合意し、厚労省はこの夏にも冷凍したエボラウイルスなど五種類の危険度の高いウイルスを輸入し、同市内の国立感染症研究所(感染研)村山庁舎の研究施設に保管することを決めた。テロを避けるため、輸入の日時や経路は公表されない。この原稿が掲載される頃には、輸入されているかもしれない。
 厚労省によると、東京五輪・パラリンピックを来年に控え、外国人観光客の増加によってエボラウイルスなどが日本国内に入ってきた場合に備え、検査体制を強化するのが狙いだ。具体的には感染の確定診断のほか、患者の血液を輸入ウイルスに反応させて抗体の有無などを調べ、退院の時期を決める判断材料に使う。ただし、輸入ウイルスを使った治療薬やワクチンの研究開発は行われない。
(以下、本誌をご覧ください)

(著者紹介)
木村良一(きむら・りょういち)ジャーナリスト・作家。1956年10月18日生まれ。慶大卒。慶大新聞研究所修了。日本記者クラブ会員。日本マス・コミュニケーション学会会員。日本医学ジャーナリスト協会理事・幹事。日本臓器移植ネットワーク倫理委員会委員。元産経新聞論説委員・編集委員。元慶大非常勤講師。著書に『移植医療を築いた二人の男』(産経新聞社)、『臓器漂流』(ポプラ社)、『パンデミック・フルー襲来』(扶桑社新書)などがある。
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