巻頭言
枝廣淳子の


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枝廣淳子
(幸せ経済社会研究所所長)





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長期成長戦略は
日本を成長させるか

 「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略策定に向けた懇談会」が9カ月の議論ののち提言を出し、それをもとに政府の長期成長戦略がもうじき決定されます。この懇談会は安倍晋三首相の「パリ協定に基づく長期戦略策定に向け、これまでの常識にとらわれない新たなビジョン策定を」という指示で設置されたもので、委員は経団連の中西宏明会長をはじめ産業界・金融界の方々や学識経験者など計10人。私も委員として参加しました。
 計5回の会合で主な論点となったのは、(1)“野心的な長期ビジョン”の具体化、(2) 昨年秋に出されたIPCC「1.5℃特別報告書」の位置づけ、(3) 国内排出削減と海外貢献の位置づけ、(4) 石炭火力の位置づけ、(5) カーボンプライシングの位置づけ、などでした。
 私は他に「人々の暮らしや豊かさ・幸せの視点を入れること」、「地域にとっての成長戦略でもあること」、「先端技術だけでなく、既存技術普及のための汎用化イノベーションも重視すること」などを強調しました。
 論点に沿って最終提言を見てみましょう。
(1)「野心的な長期ビジョン」=「最終到達点として『脱炭素社会』という『未来社会像』を設定し、野心的に今世紀後半のできるだけ早期に実現していくことを目指す。それに向け2050年までに80%の温室効果ガス排出削減という長期目標を掲げ、実現に向けて大胆に取り組む」とされました。「脱炭素」は「実質ゼロ」(人為的な排出量と吸収量の均衡)の意です。日本はすでに「2050年までに80%削減」は発表しているので、それだけでは“野心的”にはなりません。パリ協定は「今世紀後半に実質ゼロ」を求めているので、「今世紀後半のできるだけ早期に」をもって“野心的”としたものの、仏・独などは「2050年に実質ゼロ」を打ち出しています。
(2)「1.5℃目標」=「日本としてもこの努力目標実現にも貢献するため長期戦略を策定する」と明確に位置づけられました。
(3)「国内削減と海外貢献」=日本の排出量は世界の3%にすぎないので、海外貢献を重視すべきという声と、まず自国でしっかり削減すべきという声がありましたが、最終的には、「世界をリードするためには、『隗より始めよ』の故事のとおり、日本が率先垂範する必要がある。ビジネス展開の観点からも、このように国内での取り組みを意識的に進める」と国内削減の重視が打ち出されました。
(4)「石炭火力」=これは最も議論が分かれました。世界的には「脱石炭」が進んでおり、私を含め数人の委員は「長期的でもよいのでゼロ石炭」を打ち出すべきとしましたが、日本では安価なエネルギー源としてもインフラ輸出のターゲットとしても石炭火力は捨てられないという意見も強く、最終提言には盛り込まれませんでした。
(5)「カーボンプライシング」=中国を含め世界の多くの国で導入済みの「CO2に価格をつけることで排出削減をはかる」仕組みを日本にも導入すべきと私は主張しましたが、経団連は明確に反対の姿勢を打ち出しており、最終提言では「国際的な動向や日本の事情、産業の国際競争力への影響などを踏まえた専門的・技術的な議論が必要である」との言及に終わりました。
 全般的には、1.5℃目標や国内削減重視のほか、私が強調した「幸せ」について、「持続可能性、人間性、社会性を大事にする暮らし・生き方・幸せの在り方が問われている。社会の進歩をどう測るか、我々は転換点にある」という文言が入り、「日本の地域は少子高齢化といった課題を抱える」等、地域の課題を認識し、その解決と同軸で進めるという姿勢が打ち出されました。汎用化についても「技術を社会実装していく『実用化・普及のためのイノベーション』推進が不可欠」とされるなど、評価できる提言になったと思います。
 一方、脱石炭やカーボンプライシングを明確に打ち出せなかったことが、日本の長期成長への禍根を残すことを憂えています。
(幸せ経済社会研究所所長)


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