巻頭言
枝廣淳子の


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枝廣淳子
(幸せ経済社会研究所所長)





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新たな発想の
長期戦略懇談会

 8月3日、「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略策定に向けた懇談会」の初回会合が開催されました。
 未来投資会議での安倍首相からの「パリ協定に基づく長期戦略策定に向け、金融界、経済界、学界など各界の有識者に集まってもらい、これまでの常識にとらわれない新たなビジョン策定のための有識者会議を」との指示で設置されたもので、JICAの北岡伸一理事長が座長を務め、委員は経団連の中西宏明会長、トヨタ自動車の内山田竹志会長、新日鐵住金の進藤孝生社長、東京海上ホールディングスの隅修三会長、GPIFの水野弘道CIO、富山の森雅志市長、名古屋大学の高村ゆかり教授、東京大学の安井至名誉教授、そして私の計十人です。
 安倍首相は冒頭の挨拶で、「環境と経済をめぐる情勢は、ここ数年で一変しています。ESG投資はこの5年で1000兆円以上増加し、グリーンボンドの発行量も50倍に拡大するなど、世界の資金の流れが大きく変わりつつあります。もはや温暖化対策は、企業にとってコストではありません。競争力の源泉であります。環境問題への対応に積極的な企業に、世界中から資金が集まり、次なる成長とさらなる対策が可能となる。まさに環境と成長の好循環とも呼ぶべき変化が、この5年余りの間で、世界規模で、ものすごいスピードで進んでいます」と問題意識を述べられました。
 ところが、残念ながら、わが日本はこの世界的潮流に乗り遅れている状況です。
 そこで「この環境と経済の好循環をどんどん回転させることで、ビジネス主導の技術革新を促していく。従来の延長線上にないイノベーションを創出し、日本経済の力強い成長につなげていく」ためのビジョンを描く──これが、懇談会が設置された目的です。
 会合で発言したように、私自身は、「成長戦略としての長期戦略」の「成長」とは何か、「長期」を考えるとはどういうことか、が非常に重要だと考えています。
「長期」を考える際に必須なのは、エネルギー情勢懇談会でも繰り返し確認しましたが、「未来は不安定で不確実である」ことを受け容れることです。決め打ちの未来を想定して政策や事業を展開することはできません。外的ショックにもしなやかに立ち直る力、「レジリエンス」を高める成長戦略が必要です。
 レジリエンスを高めるためには、短期的な効率・利益の最大化ではなく、長期的な持続性を重視すること。メガ産業の創出をねらう集中型ではなく、小さい規模でも数多くの産業や新しい企業を興していく分散型の経済成長を目指すことです。そうすれば、不確実な未来に何かが起こったとしても、総崩れになる恐れは減ります。 
 もう1つ、特に人口減少・高齢化が進行する日本にとって重要なのは「地域の力を高める成長戦略」です。もちろん最先端の大企業がさらに先に進むことも大事ですが、一方で「人口の8%にすぎない小規模自治体の住民が国土の48%を守っている」現状を鑑みると、地域の経済をしっかり支えることで、こういった人々が住み続けることを可能にする成長戦略が必要なのです。
 人々の幸せの定義も変わりつつあります。これまでの「GDPが増えればいい」という価値観ではなく、持続可能性・人間性・社会性を大事にする生き方を求める人が増えています。経済一辺倒ではない成長戦略をどうつくるのか、何を成長させるべきなのかという議論もできたら、と考えています。
 日本は、来年のG20議長国です。世界に恥ずかしくない温暖化対策の長期目標を打ち出しつつ、温暖化への取り組みが日本企業の強さにもつながり、同時に、地域経済や人々の豊かさの実感も向上していく成長戦略を、と願っています。
 最後に、この懇談会は「非公開」となっています。その必要は全くなく、こうした議論を国民と共に進めることが重要ではないでしょうか。
(幸せ経済社会研究所所長)


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