巻頭言
池 東旭の


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池 東旭氏
(ソウル在住/
国際ジャーナリスト)





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古い風車は壊した。
だが風が止んだのでない

──旧悪去って新悪現れる
 韓国は1948年の政府樹立後、憲法を9回改正して、第1共和国から第6共和国に至った。政権は反共、軍部、保守、左派など転々して、大統領は文在寅まで12人だ。政権が代わるたびに外交路線は親米、親日、親中、反日に反転し、対北戦略も反共、容共、対決、宥和、対話、制裁など変わった。政権交代で国政の連続性は断ち切られる。新政権は積弊清算を掲げ旧政権を全否定して断罪する。標的は前任大統領だ。歴代大統領で退任後に安穏な余生を過ごした例は1人もいない。暗殺された者1人、自殺は1人、退任後刑務所入りが2人、任期を全うせず下野したのが3人。本人は逮捕を免れたが、息子、兄弟が収監されたのが3人だ。
 朴槿恵前大統領も国政紊乱、職権濫用で弾劾され、今、未決囚503号と呼ばれ、法の裁きを受ける境涯だ。新政権が旧政権の追従勢力を処罰するのは権力基盤を固める常套手段だ。断罪の基準はダブル・スタンダードだ。従来の慣行も遡及して不法とされ、政治的報復の悪循環を生む。だが残存勢力の去勢が一段落すると新しい権力も現実と妥協する。旧悪一掃を掲げてクーデターで権力を握った朴正熙政権も李承晩政権と結託したサムスン、現代など不正蓄財者の厳罰を公約した。だが経済を開発するには彼らを活用するしかない。処罰はウヤムヤにされ不正蓄財者はまた権力と癒着して焼け太りした。「旧悪去って新悪現れる」はこの時の流行語だ。

──既視感の風景
 大統領中心制の韓国で権力は大統領に集中する。絶対権力は不正腐敗の温床だ。権力が交代すれば新政権は旧悪をあばき、見せしめに叩く。毎度繰り返されるシナリオで、韓国人には既視感(デジャヴュ)の風景だ。この病弊を根絶するため、大統領権力を分散、制限するか、内閣責任制にすべきと改憲論が論議されても衆論はまとまらない。
 非理不正の発生は憲法の欠陥ではない。韓国政治の原罪である「党争」が根因だ。理念や政策ではなく利害打算で離合する党派の対立は、韓国政治の遺伝子(DNA)だ。朝鮮朝時代も血縁、地縁、学縁でつながる朋党が絶えず政変(士禍)を起こした。これらは東人、西人、老論、少論など核分裂をくり返し抗争した。
 1590年、豊臣秀吉の侵攻を懸念した朝廷は京都に使節を送り、日本の意図を探った。だが正、副使の報告は真っ向から対立した。「侵略の兆候あり」との正使(西人)の意見は人びとの不安を煽ると非難され、主流派・副使(東人)の「侵略なし」の主張が通り、朝廷は防備を怠り国土を蹂躙された。今の対北政策の迷走と酷似する。1876年開国後も親清、親露、親米、親日派など外勢を倚(たの)む党争で国は滅んだ。

──党争のツケ
 この構図は今も変わらない。保守のアイドル朴槿恵大統領の無能がろうそくデモを誘発して弾劾された。その後、大統領選挙で左派の文在寅候補が当選した。この時、保守系候補2人(洪準杓24%、安哲秀21%)の得票合計は45%、文の得票(41%)を上回る。保守の分裂が左派政権を生んだ。保守のオウン・ゴールである。脆弱な権力を固めるため左派政権は大衆迎合に汲々する。
 財政を度外視した福祉、雇用など公約を大盤振る舞いする。検察を総動員して前政権残党の余罪追及に全力をあげ、サムスン、ロッテを起訴して財界を威圧する。左派政権の外交は反日と米・中間に二股をかけ、対北戦略も支離滅裂だ。左派勢力内の軋轢も深刻だ。ろうそくデモを主導したと誇称する市民団体や労組は誰のお陰で政権をとれたかと政府に無理難題を吹きかける。政権内で親米、親中、反日、対北追従派はいがみ合う。ばら撒いた公約は時限爆弾だ。新政権の賞味期限も長続きしない。政権交代で古い風車を壊した。だが風が止んだのでない。もっと強くなった。
(ソウル在住/国際ジャーナリスト)


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