巻頭言
池 東旭の


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池 東旭氏
(ソウル在住/
国際ジャーナリスト)





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虎尾難放という
ポピュリズムの罠


──前・元大統領の末路

 栄枯盛衰、盛者必衰は世の常だ。未決囚となった朴槿惠前大統領は毎週4日開かれる公判で、かつて彼女に仕えた証人らが自分を断罪する証言にうなだれている。2015年9月3日、中国の対日戦勝記念祝典に招待され、天安門壇上で習近平主席、プーチン露大統領と肩を並べて観兵式を観閲した時が彼女の絶頂期だった。それから2年、運命は一転直下、弾劾、失職、そして囚衣の身になった。熱狂した支持者はもういない。落ちぶれた権力者に誰も寄りつかない。マスコミも裁判の成り行きを1行記事で片付けている。
 韓国の政治家は「前」「元」の形容詞がついたとたん賞味期限が終わり、廃棄処分される。日本には姨捨山の伝説があるが、韓国でも昔、棄老の風習があった。「人間60、高麗葬(コリュジャン)」ということわざもある。高麗葬の名残は韓国人のDNAになり、それが政界で最も露骨だ。朴槿惠を含め歴代大統領11人の晩年は惨めだ。初代・李承晩は学生デモで下野、ハワイに亡命して客死した。次の尹?善も朴正熙将軍のクーデター後、追放された。朴正熙は宴会の場で暗殺され、跡をついだ崔圭夏は全斗煥将軍のクーデター後、下野した。その後、全斗煥、盧泰愚将軍が相次いで権座についたが、退任後不正蓄財で2人とも収監された。金泳三、金大中は本人こそ逮捕されなかったが、息子らは不正腐敗で逮捕され、盧武鉉は不正腐敗を追及され、身投げ自殺した。李明博も退任後に実兄が服役するなど悲劇は繰り返された。

──文在寅大統領のジレンマ

 ろうそくデモの追い風で当選した文在寅現大統領も逆風に直面している。米中対立の嵐の中の舵取り、北朝鮮の核脅威、慰安婦問題をめぐる日本との葛藤だけではない。野大与少の国会で過半数に届かない少数与党のせいで国政は停滞し、組閣は2カ月も遅れ、追加予算編成は難航続きだ。労組や教員組合など左派勢力はろうそく革命を主導したと誇称して「だれのお陰で政権が転がり込んだのか」とうそぶき、権力の分け前を要求する。保守勢力の頑強な抵抗もある。至るところに混乱と無秩序が蔓延している。
 ポピュリズムを代弁する大統領は財源のあてもないまま、非正規職の正規職転換、最低賃金の引き上げ、脱原発、南北オリンピック合同チーム結成など公約を乱発した。だが公約が不渡りになり、期待が裏切られればその反動は大きい。ろうそくデモという望外のチャンスで騎虎の勢いで政権を手にしたが、そのまま突進すれば崖から墜落する。かといって降りればトラに喰い殺される。虎尾難放である。野大与少のねじれは20年の次期総選挙まで解消できない。その間、危険千万な綱渡りの政局が続く。

──尻尾がイヌを振る世の中

 今回(17年5月)の大統領選挙で文在寅候補の得票率は41%で、朴槿惠候補と争って苦杯をなめた前回(12年)の得票率48%よりむしろ減った。半面、保守候補2人の得票率(洪準杓24%、安哲秀21%)を合算すれば45%になる。文大統領の誕生は本人の勝利より保守の分裂による。人々は対北宥和を説く文大統領を片思いに過ぎないと不信する。大統領本人も歴代権力者がたどった退任後の悲惨な軌跡を目にしたはずだ。秘書室長として補佐した盧武鉉大統領の自殺の顛末を知るだけに慎重に行動するだろう。だが、ポピュリズムに頼る権力者の失政は本人より支持者、支援勢力の過度な行動が原因だったことが多い。「ポピュリズムとはイヌが尻尾を振るのでなく、尻尾がイヌを振ることだ」という。ポピュリズムの波に乗って執権した為政者はそれをコントロールできず、振り回された挙げ句、転落した。パンとサーカスを大盤振る舞いしたローマ皇帝はパンとサーカスがなくなれば廃位か、暗殺された。でも、人は誰も歴史から学ばない。自分は例外だと信じている。
(ソウル在住/国際ジャーナリスト)


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