巻頭言
佐伯啓思の


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佐伯啓思氏
(京都大学名誉教授)





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AI (人工知能)は
新世紀を拓くのか


 第4次産業革命が新世紀を拓くなどといわれ、新しい技術革新にこれほど大きな期待がかかっている時代はない。2050年には世界はすっかり変わっているともいわれる。とりわけ決定的な役割を果たすのはAI(人工知能)である、と未来予測屋はいう。
 実際、昨年には、グーグル傘下にあるディープマインドが開発したアルファGOというAIが碁の世界で世界トップの韓国人棋士、イ・セドルに4勝1敗で圧勝した。その前にはIBM製のAIがチェスのチャンピオンを負かした。日本の将棋界は藤井聡太4段の活躍に沸いているが、現在のところ、AIとの対決では人間のほうが分が悪い。
 今日のAIは、いわゆるディープ・ラーニングと呼ばれ、人間の与えるデータを蓄積して計算するのではなく、膨大なデータをもとに「自分で考える」のだという。こうなると、そもそもの情報蓄積量も処理速度も人間とは比較にならないAIがその情報をもとに「考え」出せば、AIのほうが「利口」になるのも素人ながら十分に推測のつくところである。こんな「利口」な機械が、われわれの日常に入り込み、人間の仕事を代行し、われわれと「付き合う」ようになれば、確かにわれわれの生活は一変するかもしれない。
 未来に対する楽観主義者は、この「思われる」を最大限に現実化できるとみなして、ここに莫大な経済効果が生み出されるという。それが、将来に対する経済的期待を押し上げ、企業の投資意欲に火をつければ、経済成長に結びつく。こういうわけで、AIAIを制する企業や国は、経済成長を制するということになる。
 しかし、考えてみれば、もともとが、漠然たる「思われる」という程度の話なのである。いや、もしかしたら、AIはとてつもない世界を作り出すのかもしれない。しかし、ではその「とてつもない」は、本当に、われわれにとって望ましい世界なのだろうか。
 ディープマインドのアルファGOが碁の棋士イ・セドルと対決した時に唯一敗北した一局では、わずかなきっかけで、まったく信じられない自己破滅的な手を次々と打ち出したという。どうしてそういうことが生じたのかはわからないという。
 もちろん、こういう事態は、まだAIが発展途上にあるからで、やがて自己学習が進めばなくなるともいえるだろう。しかし、AIが人間の能力を超えて進化すればするほど、AIの考えていることは人間には理解できないということになる。とすれば、人間の理解を超えたとんでもないことを始めるかもしれない。それを「誤作動」などというのは、人間の側の話であって、スーパー能力の持ち主であるAIにとっては、十分に理由のあることかもしれないであろう。
 AIが本当に「とてつもない」世界を作り出すということは、人間の理解を超えたような「考え方」をする機械と生活を共にするということである。もしも、われわれが、自分の理解を超えた思考をする他人とともに生活をするとなれば、いささか躊躇するというものであろう。できるなら、遠慮したいと思うのが常識的な感覚であろう。
 しかし、われわれは、もっぱら経済的利益という観点から、第4次産業革命なるものに大きな期待をかけている。AIの進化が早ければ早いほど望ましいと考えている。私には、そのこと自体が不思議な光景に見える。もしも、AIの進化がとどまるところを知らず恐るべき速度で社会を変えれば、おそらく人間のほうがその速度に適応できず、大混乱に陥るであろう。一方、AIの進化がさして期待されるほどのものではなく、社会の大規模な変化にはつながらないとすれば、われわれの生活はAIの支配からは救われるが、経済効果はそれほどでもないということになる。どちらにしても、あまり望ましいことではないだろう。それぐらいの冷めた目で将来を見ておいたほうがよいのではなかろうか。
(京都大学名誉教授)


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