巻頭言
枝廣淳子の


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枝廣淳子氏
(東京都市大学教授/
幸せ経済社会研究所所長)





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「環境」を置き去る
東京五輪の危機


 東京オリンピック(五輪)・パラリンピックは、経費の見直しや「誰が何を負担するのか」をめぐる混乱の陰で、より重要な「それによってどのような五輪・パラリンピックにするのか」の議論が進んでいません。東京五輪・パラリンピック組織委員会の持続可能性委員会のメンバーとして低炭素ワーキンググループの議論に関わり、「持続可能な調達」にも大きな関心を寄せている私の実感です。
 オリンピックにとって、「スポーツ」と「文化」に並ぶ第3の要素が「環境」であることをご存じでしょうか。かねてから、五輪のために巨大な施設を数多く建設することに対し、「自然破壊だ」という強い批判がありました。「環境問題は世界の大きな課題である」という認識が台頭してくる中、「世界初のグリーン五輪」として開催されたのが1994年のリレハンメル冬季五輪大会です。
 同年8月、パリでのIOCの100周年会議で環境を五輪の第3の柱として認識し、1996年には五輪憲章を改正して「持続可能な開発を促進する」ことをその基本理念に組み込みました。また、大会による環境破壊の防止という「マイナスを減らす」取り組みだけでなく、五輪を開催都市の環境を改善する契機にするという、「プラスを創り出す」取り組みも重視するようになりました。2000年のシドニー五輪では、大会招致活動の準備段階からNGOが参加して「グリーン五輪」が中心的コンセプトに据えられました。
 そして、「持続可能性に真正面から取り組んだ初めての五輪」といわれているのが、2012年のロンドン五輪です。「近代五輪史上、最も持続可能な大会」を目指し、「地球1個分の五輪」というテーマを設定。その実現のために、独立の監視委員会「持続可能なロンドン2012委員会」を設置し、第3者の目で監視するしくみをつくったのです。
 大会の環境への影響を考えると、会期中の運営だけではなく、会場などの設営・建設、さまざまな物品の調達などの基準も極めて重要です。ロンドン五輪では、厳密で包括的な調達基準を設定し、環境面・社会面に配慮した製品とサービスを用いるようにしました。
 例えば、会場の建設に用いる木材や大会で使用する紙はすべてFSC森林認証を取得したものとし、会場や選手村で提供される飲食品はフェアトレード、有機栽培、持続可能な生産などの認証を取得したものでした。持続可能な森林経営が行われていると認められた木材の「FSC認証」、熱帯雨林や生態系に悪影響を及ぼさないパーム油を使った製品に与えられる「RSPO認証」、環境に配慮した漁で獲った「MSC認証」などです。
 前回のリオ五輪でも、「ここまでできるのだ!」と感心するほど、多くの環境配慮と低炭素化が進められました。
 では、2020年の東京五輪はどうでしょうか? ロンドン五輪が大きく打ち出した方向性や成果をさらに超えることを期待されているのは間違いありません。しかし、私の関わっている低炭素化・脱炭素化やアニマルウェルフェア(動物福祉に配慮した畜産物)の観点からは、このままでは過去の大会に劣ってしまうのではないか、と心配です。そして何よりも、こういった大事な議論が、政治家やマスコミ、市民の間でもほとんどなされていないことに危機感を覚えています。
 五輪・パラリンピックでは「レガシー」を重視します。大会自体は短期間ですから、それを通じて開催地や開催国、ひいては世界に「大会を超えた長期的なビジョンに向けて、どのような望ましいものを遺せるか」を問うているのです。
 せっかく巨額の資金を投じて開催する東京五輪・パラリンピック大会です。後年「これが大きなきっかけとなって、日本の政府も自治体も企業も市民も、持続可能性のさまざまな側面で進んだね」といわれるような、大きなレガシーを生み出せるオリンピックにしていくための議論を展開していきましょう!
(東京都市大学教授/幸せ経済社会研究所所長)


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