巻頭言
池 東旭の


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池 東旭氏
(ソウル在住/
国際ジャーナリスト)





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未決囚503号と呼ばれる
朴前大統領と韓国世論


──小ナポレオンの浮沈
 ルイ・ナポレオン。世(1808〜1873)は偉大な伯父(ナポレオン汾「)の栄光のおかげで亡命先から帰国して大統領に選ばれたのち、皇帝になれた。彼は治世18年間パリ市を大改造するなど少なからぬ業績を上げた。しかしメキシコ内政介入で失敗、徳川幕府に肩入れしたが、英国が後押しした薩長連合の倒幕で目算が狂うなど外政で失点を重ねた。1870年普仏戦争が起きると伯父を倣って陣頭に立ったが、プロシア軍に包囲されセダンで捕虜になる屈辱をなめた。フランスは帝政を廃止して共和国を宣布した。ルイ・ナポレオンは亡命先の英国で2年後に客死したが、死ぬまで「私はセダンで自決すべきだった」と悔いたという。
 フランスにおけるナポレオン伝説はこれで終止符が打たれた。マルクスはナポレオン。世を評して「歴史は2度くり返す。最初は悲劇として、2回目は喜劇として……」と記した。短躯で見栄えしない彼は、女たらしと言われたが、「私は1度も先に誘惑したことはない。ナポレオンの名前の私に女たちが寄ってきたのだ」と回想した。ブランド名の効能のほどを示す。

──虚像と現実の落差
 未決囚503号の番号をつけた朴槿惠前大統領も父親の後光で権力の頂点に上り詰めた。人々は朴正熙の娘を放っておかなかった。彼女は20年前に政界入りして以来、保守のアイコンになった。高齢世代は彼女に韓国経済の高度成長を陣頭指揮した朴正熙大統領の追憶を重ね合わせた。より良い明日を目指して皆が一生懸命働いた青春時代への郷愁だ。両親2人とも凶弾で失い、婚期を逸した孤独な彼女に惻隠の情も作用した。スキャンダルと無縁の彼女はいつの間にか保守の希望の星になり、63%という高い支持率を得て大統領に就任した。だが彼女の虚像と現実の落差はすぐ明らかになった。お姫様育ちの彼女に国政は荷が重すぎた。
 彼女のロールモデルは父親の開発独裁だ。朴正熙は軍部を掌握して国政をコントロールした。その手法は通用しない。未婚の彼女は胸襟を開く相談相手もいない。頼るべきマスコミと疎通せず、記者会見も年1回に限った。就任1年で大統領は独断、独善、不通の代名詞になった。華麗な外交行脚で支持率アップを試みたが米中対立の激化でそれも裏目に出た。政治手腕に欠けた彼女の唯一の取り柄は、歴代権力者につきまとう利権の腐臭がない点だ。だが昨年10月、長年の知人・崔順実の国政壟断(ろうだん)スキャンダルが発覚して大統領の関与疑惑が浮上した。

──特別赦免の世論
 期待と幻想が裏切られた反動は大きい。毎週土曜夜、ソウル都心は大統領弾劾を叫ぶろうそくデモで埋めつくされ、支持率は4%に急落した。わずか半年で弾劾、罷免、そして収監され、天国から地獄へ転落した。これから法廷は大統領の国政紊乱と収賄容疑を裁く。彼女はすべて正当な権限の行使であり、カネは一切もらっていない。不正があったとすれば関係者の忖度のせいと潔白を主張する。
 世論は熱しやすく冷めやすい。群衆は理性より感情に支配される。断罪を要求した大衆もテレビが囚衣をまとい、やつれた彼女の姿を放映すると風向きが変わった。憐憫と同情が高まる中、特別赦免の温情論も聞こえる。20年前に軍事反乱と不正蓄財で逮捕された元大統領2人(全斗煥、盧泰愚)は無期と懲役17年を宣告されたが政権交代後に特赦された。彼女は赦免されても余生は安穏でない。年金など前職大統領の礼遇すべてを剥奪された。毀誉褒貶の嵐も続く。
 弾劾直前の会見で彼女は「大統領になるのでなかった」と後悔を口にした。カソリックの西江大学で学んだ彼女の洗礼名はユリアと言う。法の裁きがどうであれ、できるなら修道院に入り、恩讐のすべてを忘れて祈祷の日々を過ごしてほしいと願う声もある。
(ソウル在住/国際ジャーナリスト)


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