巻頭言
池 東旭の


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池 東旭氏
(ソウル在住
/国際ジャーナリスト)





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戦争を恐れない世代と
繰り返される「まさか」


 2016年は「まさか」の年だった。トランプ大統領当選、英国のEU離脱、ヨーロッパ各地のテロ、東京都知事辞任と改選、韓国の朴槿恵大統領弾劾等々、1年前はありえないと思われた想定外の出来事が次々起きた。だが、起こるべきことも起きた。人々の鬱積した不満、憤怒、閉塞感が噴出したのだ。マスコミはそれを読み取れなかったし、読み取ろうともしなかった。まさかが現実になるとマスコミはその原因や理由をいろいろあげつらうが後講釈だ。
 世の中、立派な理由(タテマエ)と本当の理由(ホンネ)は別だ。マスコミは立派な理由を書いても、本当の理由は書かない。いや書けない。人間はいつも想定外に直面する。天災地変はむろんのこと、人間の所業である政変、戦争、飢饉、難民、暗殺、テロはある日思いがけなく起き、歴史のコースを変える。

──まさかの歴史
 第1次世界大戦のきっかけはサラエボにおけるオーストリア帝国皇太子夫妻の暗殺だ。当初オーストリア・セルビア両国の外交折衝で収まるはずの局地的事件はドイツ、ロシア、フランス、イギリスが介入してヨーロッパ全土を巻き込む戦乱に拡大した。戦後、4つの帝国(ドイツ、オーストリア、ロシア、トルコ)が消え、史上初めて社会主義国家ソ連とチェコスロバキアなどヨーロッパで9つの新生国家が出現した。誰も予想しなかった想定外の成り行きだ。
 1972年2月、ニクソン大統領は電撃訪中した。冷戦の真っ最中、東西陣営が先鋭に対立した時期、ソ連最大の盟友・中国への極秘訪問だ。中国はその20年前に朝鮮半島で米国と戦火を交えた敵国で、国交断絶状態だった。誰もがまさかと思ったことが起きた。ニクソン訪中はイデオロギーや過去のしがらみに囚われない現実外交(リアルポリティーク)の見本だ。ニクソン訪中はその後、日中国交回復、共産圏の分裂、ソ連の崩壊、中国崛起という世界史の分岐点になった。

──まさかの真珠湾奇襲
 歴史はまさかの連続だ。日本の真珠湾奇襲もその1つだ。常識では国力で絶対に劣る日本が米国に戦争を仕掛けることはありえない。それが起きた。当時ルーズベルト大統領は、ドイツとイギリスが死闘を続ける大戦に介入しようとした。だが、米国世論は圧倒的に反対だ。1940年。戦争不介入の公約を掲げて3期目当選したルーズベルトは参戦の口実を探った。米国は中国と交戦中の日本を日米通商条約破棄、在米資産凍結、対日石油禁輸で追い詰めた。窮鼠猫を噛むの喩えもある。日本は捨て身の賭けで真珠湾を奇襲した。西部劇の決闘ではピストルを先に引き抜いた相手を倒すカウボーイがヒーローだ。そのシナリオ通りだ。ベルリンの壁崩壊、東西ドイツ統一、ソ連の解体などもまさかの繰り返しだ。

──米中対決か共存か
 今、世界の焦点は米中の対決か共存かにある。米・中両国は死活がかかる戦争など愚かな真似はしないというのが常識だ。今年夏までに韓国は大統領選挙を実施する。保守陣営は朴槿恵弾劾で有権者の支持を失った。世論調査では左派候補の当選が有力だ。反日親中、北朝鮮の金正恩政権と宥和と対話を唱える左派政権になれば日米韓同盟は瓦解する。東アジアの勢力均衡は崩れ、韓半島は中国の縄張りになる。強面のトランプ米大統領は北朝鮮の核ミサイル開発を座視しない。先制攻撃も辞さない。強気同士の米中の睨み合いは殴り合いになりかねない。金正恩独裁の墜落もありうる。金は執権五年間、叔母の夫・張成沢など党・政・軍幹部140人を粛清、党中央委員55%を入れ替えた。恐怖統治は政権基盤の不安定を反証する。
 ある日突然、まさかのことが起こる。
 戦後70年、戦争の記憶は風化した。トランプ、習近平、プーチン、安倍、金正恩は戦争の惨禍を体験したことがないリーダーだ。戦争を知らない世代は戦争を恐れない。
(ソウル在住/国際ジャーナリスト)


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